不朽の名作と言われ、すでに雑誌やブログで多くが語られ、尽くされた感もあるフリーライド。吉沢フィルムの吉沢氏はサーフマガジンのインタビューで、日本で一番上映されたサーフムービーが”メニー・クラシック・モーメンツ”とこの”フリーライド”であると語っています。近年、一切再上映もDVD化もされず、その理由も著作権問題、監督であるビル・デラニー氏がDVD化に否定的、あるいは投資ファンドの手に渡ったなど、様々な憶測が囁かれている中、デラニー氏は自身による後日談も少ないうちに2019年に亡くなってしまいました。
マット・ウォーショウ氏のサーフィン 百科事典によると、フリーライドの成功要因を①写真家ダン・マーケルによる超スローモーション水中映像、②波に恵まれた75−76年のシーズン、③ショーン・トムソン、ラビット・バーソロミュー、マーク・リチャーズといった優秀な若手サーファーたちの台頭、④素晴らしいサウンドトラックであると分析しています。
そのサウンドトラックで必ず名前に上がるのが、オープニング曲である”Zero to Sixty in Five(Pablo Cruise)”。気持ちを盛り上げるには最高な曲で、映画公開以降ボードを積んで海に向かう車では必ずこの曲がかかっていました。90分テープの片面全部をこの曲にしていた人もいたほどです。
フリーライドのサントラですが、私も含め多くの人がA&Mレコードとのタイアップと思っておりました。しかし先のマット・ウォーショウ氏によると、ビル・デラニー氏の無断使用だったと述べています。よってサントラ盤が出ることもなく、人気サーフムービーにも関わらず、DVD化や再上映がされない理由のひとつになっているようです。ただ結果的に言えば、パブロ・クルーズにしてもギャラガー&ライルにしても、この映画なしではアメリカや日本でこれほど有名になることはなかったでしょう(旧来のギャラガー&ライルのファンしてみれば、イギリスのデュオがなぜサーフロック扱いなのか不本意かと思いますが)。日本版CDでは”Zero to Sixty in Five”に「フリー・ライド・サーファー」という副題がつけられています。
フリーライド以前のサーフムービーのサントラは、オリジナル曲(50年代のバド・シャンクから70年代前半のデニス・ドラゴンらサーフコミュニティ内のアーティストに代表される)を制作するか、有名アーティストの作品を無断使用するケース(パシフィック・バイブレーション他多数)が多かったのですが、サーフィンとは全く関係がなく、またアメリカでの知名度がそれほど高くないアーティストの既成曲を使用したことはフリーライドが最初でした。特にギャラガー&ライル、アンディ・フェアウエザー・ロウ、ジョーン・アーマトレーディングら英国のアーティストは本国では知名度があっても、大きな市場であるアメリカではメジャーな存在ではありませんでした。
当時としては無断使用については目をつぶっていた背景もあったのかもしれませんが、たとえそのようなアーティストと正式に契約したとしても、有名アーティストとの契約よりかははるかに容易であったでしょう。その後のサーフィン映画、例えば”ストーム・ライダーズ”、”ウイザード・オブ・ザ・ウォーター”などではオーストラリアの新人アーティストが起用されています。ストーム・ライダーズのプロデューサー、ジャック・マッコイ氏は有名アーティストのヒット曲を使用すると公開時にはすでに時代遅れ感が出てしまうとサーフィンワールド誌のインタビューで語っています。
映画の話に戻りますが、フリーライドは77年に公開され、その後二度ほどリニューアルされています。78年に”ニューフリーライド ”、そして83年に”フリーライド・ファイナルエディション”が公開されています。
”ニューフリーライド”では77−78年のシーズンの映像が追加され、ツインフィン・フィーバーの火付け役となったマーク・リチャーズのツインフィン映像、そしてマーク・リチャーズとショーン・トムソンのオフザウォールでの2 in Oneが収録されています。またファイナルエディションではポスターにもなっているシェイン・ホランの水中映像が収録されていたようです。
Title: New Free Ride
Year: 1978
Size: 31x69cm
Producer: Bill Delaney
Artist: Joe Garnett
Origin: U.S. Issue: AU
Title: Free Ride Final Edition
Year: 1983
Size: 28×48 cm
Producer: Bill Delaney
Surfer: Cheyne Horan
Origin: U.S. Issue: AU
現在残っている映像は、82年頃にビデオ化された”ニューフリーライド”のもので、YouTubeなどにアップされている映像の出所もこのビデオからと思われます。残念ながら77年公開のオリジナル版や83年のファイナルエディションの映像は現時点で見ることができません。
ビデオ化された”ニューフリーライド”ですが、エンドロールにある曲名リストがオリジナル版のままになっています。そのためカットされた曲がそのままになっていたり、また新たに加わった曲が記されておりません。エンドロールにあるジョーン・アーマトレーディングの”People"と”Down to Zero”は、アメリカ、オーストラリア版ビデオではどちらもカット、日本版では”People”のパートのみがカットされています。恐らく日本版が本来の”ニューフリーライド”ではないかと推測されます。”ニューフリーライド”のサントラ曲名リストを下記に示しておきます。
”ニューフリーライド”のサウンドトラック曲名リスト
New Free Ride Soundtrack
in order of appearance
1. Zero to Sixty in Five (Pablo Cruise):
オープニング
2. Ocean Breeze (Pablo Cruise):
パイプ、ホノルア、サンセット (MR,ST,WB)
3. Country Morning (Gallagher & Lyle):
クイーンズランド ラビットのサッカー(WB)
4. Stay Young (Gallagher & Lyle):
バーレーヘッズ 、ラビットのブランコ(WB)
5. Be Bop & Halla (Andy Fairweather Law):
ビクトリア、75年ベルズ(M.ピーターソン、T.フィッツ他)
6. El Verano (Pablo Cruise):
ショーン66〜78年(ST)
7. Puu -A -Hoku” (Bill Cuomo):
ウルワツ、パダンパダン(ピーター・マッケイブ、トニー・ウェザリントン)
8. That’s Life (Billy Preston):
ハンティントン
9. Break Away (Gallagher & Lyle):
ハンググライダー、スキー、スケボー
-INTERMISSION –
10. Island of Dreams (Hummingbird):
ハワイアンスタイル、ノース(L.バートルマン、マーク・リデル他)
11. Ocean Breeze (Pablo Cruise):
ワイプアウト,MRツイン、2in One(ST/MR)
12. Symphonie “Eroica”:
ウォーターショット
13. La Booga Rooga (Andy Fairweather Law) :
75年スミノフ ワイメア(MR,イアン・カーンズ、WB)
14. Drowning on Dry Land (Andy Fairweather Law) :
ラビットノースショアライフ、ボード解説(WB)
15. Unconfirmed:
サンセット?パイプ、OTW (WB)
16. Down to Zero (Joan Armatrading):
OTW (ST)
17. Ocean Breeze (Pablo Cruise):
OTW (ST,WB)
18. Oldies:
60年代のサーフムービー (ミッキー・ドラ他)
19. Zero to Sixty in Five (Pablo Cruise) :
フィナーレ(ST,MR,WB)
20. Stay Young (Gallagher & Lyle):
エンドロール
*ST:ショーン・トムソン、MR:マーク・リチャーズ WB:ウェイン・”ラビット”・バーソロミュー
エンドロールの曲名リストにある”Rabbit’s Theme”(Robb Mackay)が本編で見当たりません。もしご存知の方がおられたらご教示ください。(終)