「第1回 サーフィン映画って」でも紹介した通り、サーフムービーは公民館や市民センターなどを巡回しながら上映していました。これはアメリカ、オーストラリアでも同様で、告知はサーフィン雑誌への広告掲載やサーフポイント近くの駐車場や電柱に日時と場所が書き込まれたポスターでされていました。そのためサーフムービーポスターには日時を後から印刷したり、手書きスペースがあるのが特徴です。
屋外に貼られるポスターの多くはモノクロ、チケットを販売するサーフショップにはフルカラーのものが貼られました。告知ポスターは一般に販売されたり配布することがないため、手に入りにくいものでした。会場で余ったポスターが配られることがごく稀ですがありました。
各年代のポスターの特徴
50年代〜60年代中期
アメリカでは60年代中ごろに起こるサーフィンブームまで、サーフムービーは海に近いエリアに住むサーファーたちだけが観に行くものでした。一般のロードショー上映と違い、上映会場も少ないため、少ない予算でわずかな数量を印刷する工夫がされています。
この時代の特徴として、単色や2色刷りのものが多いです。印刷色も低価格のプロセスカラー(スミ、イエロー、マゼンタ、シアン)インクが使われています。2色以上使う場合もコストの安い単色印刷機で印刷できるよう版ズレしてもいいようなデザインにしてあります。
Title: Cavalcade of Surf
Year: 1962
Size: 21.5xc28m
Producer: Bud Browne
Artist:
Origin: U.S. Issue: U.S.
上のポスターは1962年のバド・ブラウンの作品 ”キャバルケイド オブ サーフ”のポスターですが、青と赤の2色刷りで、青の上から赤のオーバープリンティングがされています。
60年代中期〜後期
まだ単色や2色刷りのものが主流ですが、4色刷りや特色刷りのものも増えて来ました。世界的なサーフィンブームに乗り、エンドレスサマーのように巡回上映から劇場公開になった作品は一般公開作品と同様にワンシート(約69X104cm)と呼ばれる大判のポスターも作られました。ワンシートにはDay-Gloと呼ばれる蛍光インクを使用したシルク印刷のものもありました。当時はほとんど折り畳まれて配送されていたため折り皺やひび割れしているものが多いです。デザイン的にはエンドレスサマー、パフォーマー、サンシャインシー、フリー&イージーなどシルエット表現が流行りました。
70年代〜80年代
1970年、それまでサーファー誌の挿絵やグレイトフルデッドなどのコンサートポスターを手掛けていたリック・グリフィンが”パシフィックバイブレーション”のポスターを制作しました。それはフルカラーのエアブラシ作品で、その後ジム・エバンス、テリー・ラムなどのアーティストらがポスターを手掛けるようになりました。
サーフアーティストによるイラストポスターは80年代も続き、新たにフィル・ロバーツやジム・デビッドソンといった現在でも活躍しているサーフアーティストが登場して来ました。80年代後半になるとクイックシルバー、リップカール、オーシャンパシフィックなどの大手サーフブランドがスポンサーになって製作されるようになり、ポスターにもブランドロゴが入るものが目立って来ました。
サーフムービーポスターのサイズ
サーフィン映画のポスターのサイズはまちまちです。60年代のものは比較的小さいものが多く、70年以降のフルカラーのもの大きくなり、大体以下のサイズのものが多数を占めるようになりました。
・アメリカ版: 11 X 17インチ(28 X 43cm)前後、13 X 26インチ(33 X 66cm)前後
・オーストラリア版:13 X 21インチ(28 X 53cm)前後、13 X 30インチ(33 X 76cm)前後
このほか配るためのハンドビルと呼ばれるチラシ(12.5 X 21cm) 前後があります。また67年のエンドレスサマー以降、劇場公開される作品では通常のロードショー作品と同じくワンシートや数種類のポスターが用意されていました。また上映会場やサーフィン誌での通販で販売されるポスターもありました。
サーファーマガジンに掲載された”Liquid Space(1973)”の広告。特大ポスターは2ドル、サントラアルバムが5ドルで通販で買えました。下がそのポスター
Title: Liquid Space
Year: 1973
Size: 71×108 cm
Producer: Dale Davis
Artist: Janice Lovoos
Origin: U.S. Issue: U.S.
各国のポスターの特徴
アメリカ:表面にツヤのあるアート紙のものが多いですが、単色印刷の場合は色上質紙が使われているものもあります。
オーストラリア:薄手の晒しクラフト紙が使われることが多いです。70年代中期以降のポスターにはレイティングマーク(三角マーク)が印刷されています。オーストラリアには映画ポスター専門の印刷会社があり、”M.A.P.S. Litho Pty. Ltd.”社で印刷されたものは隅にM.A.P.S.の文字が印刷されています。
日本:アメリカと同様、多くがアート紙に印刷されています。オリジナルと同じデザインですが、日本版のポスターにはスポンサーのロゴが印刷されているものが多いです。これは上映会のスポンサーで、抽選会に商品を提供したショップやメーカーです。
Title: Sea Flight
Year: 1980
Size: 29.5×58.5 cm
Producer: Bob Condon, Ron Condon
Artist: Jim Denny / Darcy Baker
Origin: U.S. Issue: JPN
”シーフライト”の日本版ポスター。これは当時上映の時に出口で配っていたのを貰いました。ポスター下にスポンサーのドミンゴ、ラバーズロック、ゴッデスのブランドロゴが入っています。
サーフムービーポスターの購入
手に入りやすいのは、アメリカやオーストラリアのものになります。私のコレクションのほとんどがeBayで購入したアメリカやオーストラリアのものです。それ以外ではサーフィン関連のヴィンテージグッズを扱っているお店でも販売しています。アメリカやオーストラリアにはこういった古いポスターやチラシを集めるコレクターが多くその市場がありますが、日本版のポスターはなかなか入手が難しいです。海外の映画ポスター専門店でもたまに見かけますが、価格は高いように思えます。
価格は60年代のもので100〜500ドル(1〜5万円くらい)、70年代のもので50ドル(5000円くらい)です。
これに送料が加わるので、1枚だけ買うと高くなってしまいます。特にエンドレスサマー、サントウシャ、リック・グリフィンのポスターは人気があって非常に高価です。
ヴィンテージポスターを購入する際の注意点
・信頼できるお店で購入
・オリジナルにこだわるなら、リプロダクションやカラーコピーに注意
中には雑誌や本からの切り抜きもあるので注意してください
・サイズに注意: 同じデザインでもポスターとハンドビル(チラシ)ではサイズが違います。
・送料に注意:大判のポスターを購入したところ送料が異常に高く、ロールではなく一枚ペラだったことがあり ました。
・切り取りの有無をチェック
ポスターには日時を入れるスペースがあります。中にはその部分を切り取っているものがありますので注意
してください。
同じデザインでもこれだけサイズが違います。単体画像だけではわからないのでサイズは要チェックです
今あるサーフアートの原点がサーフムービーのポスターではないかと思っています。こういったポスターを眺めているとワクワクしますね(終)